数W~300W程度の電源に使用されるフォワードトランスの設計方法を伝授致します。
電気と電磁気学の知識が多少必要ですが極力簡素化しました。
それでは始めましょう。

1. 仕様の決定

 設計するトランスの仕様を明確にします。

<設計事例>
 ・入力電圧:DC200V (150~300V)
 ・出力電圧:5V
 ・出力電流:10A
 ・周 波 数 :100kHz
 ・デューティー:50%
 ・効 率  :90%

 以上の仕様で設計してみます。

2. コア、ボビンの選定

 フォワードトランスの材料として主に使用されているフェライトコアを使用します。
 ボビンはフェライトコアの形に合った物を選定します。

  コ ア :PC40PQ32/20  (TDK)
  ボビン:BPQ32/20-1112CPFR  (TDK)

 今回はこのコアとボビンを使用します。
 (実際に使用する際は電源の高さ、基板の床面積等を考慮する必要があります。)

3. 最大磁束密度:Bmax 最大動作磁束密度:ΔBmaxの決定

 メーカーカタログより、100℃の飽和磁束密度:Bs、残留磁束密度:Brを読み取ります。

 カタログより
  100℃における飽和磁束密度は Bs:390mT(ミリテスラ)
  100℃における残留磁束密度は Br:60mT(ミリテスラ)

 Bmax = 約Bs×0.75(約25%マージンを見てます。)
    
     = 390×0.75≒300mT

 ΔBmax = Bmax – Br

       = 300-60=240mT 

4. 巻数比の算出

 最低入力電圧、最大デューティー時に仕様が満足出来るようにします。

 出力電圧:Vo=(Ns/Np)×Vin×D-VF-Vd
        Ns:二次側巻数
        Np:一次側巻数
        Vin:入力電圧
        D :デューティー
        VF:二次側整流ダイオードの電圧降下
        Vd:その他二次側電圧降下

 より、最低入力電圧時満足するよう
 巻数比 Ns/Np≧(Vo+VF+Vd) / (D(max)×Vin(min)
         
          ≧(5+0.6+0.5) / (0.5×150)
        
          ≧0.081

5. 一次巻線の巻数の決定

 過渡時に入力最大、デューティー最大となった場合にもΔBを超えないよう巻数を決定します。

 磁束密度ΔB=(Vin×Ton)/(Ae×Np)×109 〔mT〕

      Ae:実効中足断面積(mm2)

      Ton:スイッチング素子のON時間

 上式より

 Np=(Vin(max)×Ton(max))/(Acpmin×ΔB)×109

 Acpmin:最小中足断面積(mm2)

  =(300×10×10-6×0.5)/(137×240)×109

  =45.6 〔ターン〕min

 よって、Npは46ターン以上必要です。

6. 二次巻線の巻数の決定

 4項の巻数比より求めます。

 Ns≧Np×(Ns/Np)=46×0.081=3.73

 従って、Nsは4ターンと決定する。

 確認:Np≦Ns×(Np/Ns)=4×(1/0.081)=49.38

 となり、46ターンを満足する。

 タップ比 Ns/Np=4/46=0.087≧0.081  OK

7. 最低入力電圧の確認

 最低入力電圧を確認します。

 Vu=(Vo+VF+Vd)/Dmax ×Np/Ns

   =(5+0.6+0.5)/0.5 ×46/4=140.3<150 〔V〕

 最低入力電圧 150VDCを満足する。

8. 最大動作磁束密度の確認

 最大動作時の磁束密度を確認します。

 △Bmax=(Vin(max)×Ton(max))/(Acpmin×Np)×109

     =(300×10×10-6×0.5)/(137×46)×109

     =238<240 〔mT〕

9. コア損を求める

 定格動作時のコア損を求めます。

 入出力定格時のデューティ

 D=(Vo+VF+Vd)/((Ns/Np)×Vin)

  =(5+0.6+0.5)/((4/46)×200)=0.351 (35.1%)

  磁束密度
 ΔB=(Vin×Ton)/(Ae×Np)×109

   =(200×10×10-6×0.351)/(170×46)×109

   =90 〔mT〕

 Bm=ΔB+Br=90+60=150 〔mT〕

 メーカグラフより、周波数、Bmから体積当たりのコア損(Pcv)を読取ります。

  <図1>グラフより,f=100kHz Bm=131mT→Pcv=150〔kW/m3〕

  コア損Pc=(1/2)×Pcv×Ve

 =(1/2)×150×103×9420×10-9=0.94 〔W〕

   1/2:B-Hカーブの片側しか利用しない為

   Pcv:体積当たりのコア損

   Ve:コアボリューム (メーカーカタログより)

 自然空冷時トランスの温度上昇目標値を決め、メーカグラフより、許容トランス損失を読み取ります。

 巻線損失(Pwire)=許容トランス損失-コア損

  ≦1.4-0.94=0.46 〔W〕

 巻線の損失は、1次2次それぞれ 0.23W (0.46/2)

10. 線径の計算

 巻線の線径を決定します。

 表皮効果の電流深度を求める。

 δ=76/√f =76/√100×103=0.24 〔mm〕

 ※ 線径が0.48mm(2δ)以下であれば、表皮効果は無視できる。

 一次巻線の電流を求めます。

 Ip=Vo×Io/(η×D×Vin)

  =5×10/(0.9×0.351×200)=0.79 〔A〕

 矩形波の実効電流 

  Irms=Ip×√D=0.79×√0.351=0.47 〔Arms〕

  巻線損失Pwire=Irms2×Rac

  Irms:巻線電流実効値 〔Arms〕

   Rac:巻線抵抗値 〔Ω〕

  上式より

  Rac≦Pwire/Irms2 = 0.23/0.472=1.04 〔Ω〕

  巻線抵抗値Rac=ρ×(Np×lw)/Sp

  ρ:導体抵抗率 〔Ω・mm〕

  Sp:断面積 〔mm2〕

  lw:平均巻線長(メーカカタログより)〔mm〕

  上式より

  Sp≧ρ×(Np×lw)/Rac

   ≧1.73×10-5×(46×83.6)/1.04=0.06 〔mm2〕

   D≧√4×Sp/π=√4×0.06/π=0.27 〔mm〕

   よってφ0.27以上の線材を使用すればよい。

 同様に二次巻線の線径も求めます。

 Isrms=Ip×(Np/Ns)×√D

    =0.79×(46/4)×√0.351=5.38 〔A〕

 Rac≦Pwire/Isrms2 = 0.23/5.382=7.94×10-3 〔Ω〕

  Ss≧ρ×(Ns×lw)/Rac

   ≧1.73×10-5×(4×83.6)/(7.94×10-3))=0.72 〔mm2〕

 表皮効果を考慮してφ0.48の線を使用すると

 n≧Ss/(πd2/4) = 0.72/(π×0.452/4)=1.9

 よって2本以上を並列に巻く

11. まとめ

 1次側巻線: φ0.23  46〔ターン〕
 2次側巻線: φ0.45-2本以上 4〔ターン〕

 以上で設計完了です。