低電圧で大電流を発生する装置は、電源(電圧調整器)、大電流トランス、変流器などで構成されます。 単相を3台組み合わせて、三相用として使用する事も可能です。
大電流装置の用途としては、 ①ブレーカなどの遮断動作確認試験 ②ヒューズの溶断試験 ③電線、圧着端子、リレー、電磁接触器などの評価試験(温度上昇試験など) ④変流器、CT、計測器などの特性試験 などがあります。ここでは、仕様の決定時や実際の使用に際して留意する点を説明します。
1.電源部の違いによる特徴 図1の構成図において、電源部の違いによる各種構成の特徴を記します。
電源部 | 応答速度 | 周波数 | 波形歪 | 価格 | 特徴 |
無し | ※1 | ※1 | ※1 | ※1 | 大電流トランスだけの提供となります。 電源部はお客様でご用意ください。 |
手動電圧調整器 | 操作する人による | 商用電源による | 商用電源による | ◎ | 一番安価な構成です。 |
自動電圧調整器 | 数十秒 | 商用電源による | 商用電源による | ○ | 温度上昇試験など長時間用途に最適です。 ブレーカのインスタント試験用電源(※2)にも対応可能です。大容量に対応可能です。 |
PWM交流電源 | 数秒 | 45~65Hz/400Hz | 2~5% | △ | ブレーカのサーマル試験など、中~長時間用途に最適です。 150kVA程度まで対応可能です。 |
リニアアンプ交流電源 | 1波~200msec※3 | 45~440Hz可能 | 1%程度 | △ | 低歪率。応答速度が速いので、ブレーカの遮断試験(※4)に最適です。 10kVAまで対応可能です。負荷力率が低いと発熱が大きくなります。 |
※1 外部電源の仕様・価格によります。 ※2 インスタント試験用電源は、回路遮断器(サーキットブレーカ)の瞬時引外し試験(JIS C8201-2-1参照)を 行うための電源です。通電時間を設定して、その間だけ電流を流します。(図.2参照) 通電時間は幾パターンの中から設定可能で、電流は最大12000Aまで対応実績があります。 電流設定は、摺動形電圧調整器により大電流トランスの一次側電圧で設定します。
※3 最少約1波で定格電流に達します。 連続試験用途の機種は立ち上がり時間が300msec程になります。(図.3参照)
※4 ブレーカの遮断試験(JIS C8201-2-1)、漏電ブレーカの遮断試験(JIS C8201-2-2)など。
2.出力電圧(出力容量)決定時の注意事項 (1)大電流を流す場合、配線する電線の直流抵抗と長さ(インダクタンス分)により、 定格電圧で、定格出力電流が流せないということがあります。 例えば、定格出力電圧:2V、定格出力電流:1000Aの場合 2V/1000A=2mΩですので、 2mΩ以下のインピーダンスでなければ1000A流せません。 (2)出力電圧の設定にあたっては、接続ケーブルの直流抵抗による電圧降下だけではなく 接触抵抗やケーブル配線によるインダクタンス(L分)を考慮してください。 一般的にケーブルのL分は、1m=1μH程度といわれていますので、 例えば3mの場合、L分は3μHとなり、インピーダンスは 2×3.14×60Hz×3μH=1.1mΩとなります。 仕様が1000Aであれば、この電圧降下分は1.1Vとなります。 一方、ケーブルの直流抵抗分は、CVTの400㎟の場合、約0.3mΩですので L分による影響が大きいことがわかります。 (3)負荷・試験物などワークがお決まりでしたら、事前にインピーダンス測定をお願い致します。 出力電圧には余裕を持って(VAを大き目に)、検討してください。 なお、(2)項のL分の値(1m=1μH)は、2本の線を沿わせて使用しL分を極力発生させないように配線 した場合の値ですので、3項にありますように配線には十分ご注意下さい。
3.ワークとの接続(配線)における注意事項 (1)出力電線近くに鉄系の材料を置かないでください。(特に、配線のループ内に入れない) 床に鉄筋がありますと、インダクタンスが増加致します。 (2)配線のループ面積を最少にして下さい。 往復の電線を添わせて、出来ればツイストしてください。 (3)トランスを別置きにすることを推奨します。 トランスをワークの近くに設置することで、ワークとの配線インピーダンスを減らすことができます。
4.三相時のワークとの接続 トランス出力はY結線となります。 (1)理想的な結線は、トランス出力のN相をU,V,W独立して出し、各N相(Nu,Nv,Nw)を それぞれU-Nu , V-Nv , W-Nwとで沿わせて(ツイストして)ワークまで配線することです。 こうすることで、配線から発生する磁束をキャンセルできるため、各相のインピーダンスを低減することが できます。この場合の配線例を図.4、5に示します。 (2)上記(1)のような配線が出来ない場合は、図.6、7の配線となりますが、特にワークにN相が無い場合は 三相間の電流バランスもとりにくくなるため、安定するまでの時間が長くなったり、電流値がふらつくことに なります。
5.大電流トランスのみの提供について 電流トランスだけの供給も可能です。この場合、以下のことにご注意ください。 (1)%インピーダンス(%Z) 単相トランスで5%程度となります。30kVA以上では10%程度になります。 三相トランスは、さらに%Zが大きくなりますので、単相トランス3個構成での使用を推奨します。 (2)1次タップ切り替え 1次タップ切替に対応いたしますが、1次電圧最少タップで磁束密度を設計するため、 トランスのサイズは通常より大きくなります。 (3)出力開始極性について インスタント試験など、出力時間が短く、波数が奇数波の場合、同じ極性で繰り返し出力を行うとトランスが偏磁 します。これにより1次側に大きな突入電流が流れることになります。 このような試験の場合は、出力開始極性を出力ごとに変えるようにしてください。
6.電源部がPWM交流電源の場合の波形歪の改善と制御の安定化について PWM交流電源の場合、出力電圧が低い場合、波形歪が大きくなります。 また、制御する電圧が小さいと、僅かな電圧変化で電流が大きく変化するため、 電流の制御が安定しない可能性があります。 この対策として、制御する電圧をできるだけ高くするため、以下のような対応を行うことがあります。(図.8参照) ①電源部の出力トランスをタップ構成とする。 ②電源部と大電流トランスの間に抵抗部を設ける。 この構成では、電源部トランスのタップと抵抗部の設定を負荷(ワーク)により都度切り替えて 電源部トランスの1次電圧が所定の値になるように調整していただく方式となります。 なお、抵抗部は、最大で定格出力容量の20%程度の発熱があります。
7.電源部がリニアアンプ交流電源の場合 (1)連続使用の場合、負荷力率に比例して定格電流に制限があります。 これは、リニアアンプ電源の特性上、負荷力率が低いと発熱が大きくなることに起因します。 試験物が抵抗負荷であっても、配線にインダクタンスがあることから負荷力率は100%以下になります。 配線インダクタンスを考慮して定格電流を決定してください。 (2)容量性、誘導性負荷を接続した場合、共振し出力オフでも電流が発生することがあります。 負荷を事前にお借りし確認させていただくことがあります。
8.確認させていただく内容について お客様の用途に応じた最適な提案をさせていただくため、御引合いにあたり下記内容を確認しております。 (1)被試験物 ・具体的な負荷 ・容量性、誘導性、抵抗性負荷の値 (2)使用条件 ・試験時間(連続/短時間/ ON時間、OFF時間、繰返し回数、休止時間) ・出力電流立ち上がり特性 (3)使用方法・使用環境 ・具体例 ①定電流(大電流)を流して温度上昇をみる ②電流を一定時間流してブレーカの遮断動作の確認、また遮断するまでの時間の確認用 ③電流を徐々に昇圧させ、遮断する電流値の確認用 ④トランスを別置きにしてのブレーカ遮断確認の試験システム