ここではリアクトル設計の一例として商用周波数で使用される交流用リアクトル(ACL)の設計方法を紹介致します。
1.設計に必要なパラメータ
設計を行うにあたり以下に示すパラメータが必要になってきます。
・インダクタンス〔H〕
・定格電流〔A〕
・過電流〔A〕
・基本周波数〔Hz〕
・設置環境(耐熱クラス)
2.設計方法
(1)鉄芯の選定
①商用周波数の場合は入手性、コストを考慮し、珪素鋼板を使用します。
また形状的には、ギャップが挿入されるため、作業性を考慮し、切りコアではなく カットコア形状のものを使用します。
*尚、珪素鋼鈑は1kHz程度の周波数でしたら使用可能です。
②鉄芯の大きさの選定
鉄芯の大きさは、仕様から算出する容量によって判断します。
下記に容量を求める式を示します。
容量=π×f×L×I2
f:周波数〔Hz〕
L:インダクタンス〔H〕
I:定格電流〔A〕
選定の目安としては、この容量のトランスと同等の鉄芯を選定します。
(2)巻数の決定
過電流(ピーク電流)にて飽和しないよう、この時の磁束密度に注意して巻数を決定します。
下記に磁束密度を求める式を示します。(50Hz換算)
磁束密度=V/(4.44×50×巻数×鉄芯断面積)
*上記の式内におけるVは下記の式から求めます。
V=2×π×f×L×I
V:端子間電圧〔V〕
(3)線径の決定
仕様の電流に耐え得る線径を選定します。
線径を選定するにあたり、電流密度に注意して線径を求めます。
*尚、高周波リアクトルの場合は表皮効果がありますので加味する必要が あります。
(4)鉄損、銅損の計算
・鉄損の計算
商用周波数のACLの場合、鉄損が発生する原因は基本周波数の電流により決まってきます。
下記に磁束密度を求める式を示します。
ΔB=(L×Ip)/(N×Ae)
ΔB:磁束密度
I p:定格電流のp-p値〔Ap-p〕
N:巻数〔T〕
Ae:鉄芯断面積〔mm2〕
上記で算出したΔBで鉄損カーブ(コアカタログによる)より鉄損〔W/kg〕を読み取り、下記の式から鉄損を求めます。
FeW=鉄損カーブより読み取った鉄損〔W/kg〕×鉄芯質量
FeW:鉄損〔W〕
・銅損の計算
銅線の全長を計算し、銅の抵抗値を算出し、下記の式より銅損を求めます。
CuW=銅の抵抗値×I2
CuW:銅損〔W〕
(5)温度上昇の確認
上記で求めた鉄損と銅損で外形、形状を加味し温度上昇が仕様範囲内に収まるかを確認します。
参考として下記に耐熱クラスと温度上昇値について示します。
耐熱クラス | 許容最高温度 〔℃〕 |
巻線温度上昇限度 〔K〕 周囲温度 max40℃ |
基準温度 〔℃〕 |
A | 105 | 55 | 75 |
E | 120 | 70 | 90 |
B | 130 | 75 | 95 |
F | 155 | 95 | 115 |
H | 180 | 120 | 140 |
以上ACLの設計の方法です。