1.はじめに
当社製品に搭載した、組込用の交流電力計の紹介をします。
マイコンでAD変換値をサンプリングし、演算する事も可能ですが、高周波電源にも適用でき、交流回路理論に忠実な、アナログ掛算器による三相電力測定方法です。
電気技術者が実験を行う上で、電源の電圧や電流は比較的簡単に計測できますが、交流電力は計器が高価のため、一人1台使える会社は少ないと思います。
クランプタイプの簡易測定できるものもありますが、三相不平衡の場合もう少し確度が欲しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
そんな方で、自作に挑戦してみたい方の一助になればと。
(検出用のVT・CTを当社から調達して頂ければ幸いです。仕様に合わせて回路も製作しますよ。)
さて、本題です。
三相電力を測定する方法は、ニ電力計法が良く知られています。
この原理を、アナログ掛算器とオペアンプで、三相電力計測定する回路を紹介します。
(もちろん、単相の電力計にもなります。)
2.ニ電力計法による測定原理
(1)測定回路とベクトル図
W1= Vab*Ia = |Vab|*|Ia|*cos(30°+φ)
W2=-Vbc*Ic = |Vbc|*|Ic|*cos(30°-φ)
三相の電力Wは
W=W1+W2
=|Vab|*|Ia|*cos(30°+φ)+|Vbc|*|Ic|*cos(30°-φ)
ここで、三相平衡なので、
|Vab|=|Vbc|
|Ia| =|Ic|とすると
W =|Vab|*|Ia|*{cos(30°+φ) + cos(30°-φ)}
=|Vab|*|Ia|*{(√3/2*cosφ-1/2*sinφ)+(√3/2*cosφ+1/2*sinφ)}
=√3 *|Vab|*|Ia|*cosφ
となり、よく見かける三相有効電力の式と一致します。
べクトルABを任意の点kで表すと
AB = kB - kA となる。
三相電力をベクトルを用いて表すと
W=Va*Ia + Vb*Ib + Vc*Ic
ここで、Va、Vb、Vc を任意の点kを用いて書き換えると
W=(Vak-Vok)*Ia +(Vbk-Vok)*Ib + (Vck-Vok)*Ic
=Vak*Ia + Vbk*Ib + Vck*Ic - Vok*(Ia+Ib+Ic)
ここで、三相の電流の和は0ですから、(Ia+Ib+Ic)=0
従って、電力Wは
W = Vak*Ia + Vbk*Ib + Vck*Ic
今、任意の点kをVbのb点に置くと、Wの式は
W = Vab*Ia + Vbb*Ib + Vcb*Ic Vbbは0なので
= Vab*Ia + Vcb*Ic
と表す事ができます。
これは、線間電圧VabとIaの電力と、線間電圧VcbとIcの電力を測定する事で、
三相電力が測定できることがわかります。
上のWは瞬時値を表していますので、これをフィルタ回路で平均化するだけで、有効電力が
得られます。
(1)入力部は、絶縁とゲイン調整のため、電圧検出にはVT(電圧検出用トランス)を
電流検出にはCT(電流検出用トランス)を用いています。
①VT AC300V/30V 5VA 東京精電製
②CT 100A/0.1A 2VA 東京精電製
トランス型の絶縁は高速応答で、精度よく信号を伝えます。
(2)電流波形は、歪がありますからクレストファクタ(波高値/実効値)を考慮してCT及び
入力アンプのゲインを決める必要があります。
(3)掛け算器として使い易いものは、AD633(アナログデバイセス製)があります。
±10V入力で、2つの入力をV, I とすると、出力電圧は
V* I / 10 の値で出力されます。
(4)三相電力 W は直流の電圧として出力されます。
表示器に合わせて、任意にゲイン調整をします。
(5)確度を上げるには、各オペアンプや掛け算器のオフセットを調整する必要があります。
(6)高精度の計測を望む場合は、レンジ切替をする必要があります。
センサ部でレンジ切替をすることが望ましいですが、入力アンプ部でゲイン切替をすることでも、
ある程度の確度を確保することができるでしょう。(CTの直線性に依存します。)